だんだん良くなる患者さん

院長の笹山です。

当院を先代から引き継いで来年で10年を迎えます。

10年近く継続して患者さん拝見させていただいた中で、最近よく思うことについて書きます。

それは、以前は歯を上手く磨けていなかったけれど、だんだん上手く磨けるようになって、虫歯がほとんど出来なくなり、歯周病の進行も停止するか、穏やかな進行に変わった患者さんが増えてきたという事です。

ある患者さんは、歯ぐきの腫れが酷く、歯ブラシや歯間ブラシをしただけで口の中が血だらけになるくらいでしたが、今は歯磨きも上手になり、全く血が出なくなりました。

ある患者さんは、定期健診は欠かさずいらっしゃるのですが、検診のたびに虫歯見つかって治療していました。その後、歯間ブラシを毎日するようになり、虫歯がほとんど出来なくなりました。

また、ある患者さんは、元々歯周病があり、少しずつ歯が抜けていき、入れ歯になってしまいましたが、今では治療ではない日でも、歯間ブラシやうがい薬だけを買いに来られ、歯磨きも熱心にされるようになりました。

この患者さん方に対して、当初は何度も予防の大切さを説明したり、歯磨きや歯間ブラシの使い方を指導してきましたが、その効果はあまりなく、口の中がどんどん悪くなっていったのです。

この磨けなかった患者さん方が何故だんだん良くなっていったのかと考えたのですが、私は3つの要因があると思います。

①気づき 

②継続 

③時代

です。

①気づき

まずは「気づき」です。私もそうですが、自分が困ってもいないのに、人から何かをするように押し付けられても継続するのは難しいと思います。

歯を磨かなくても、普通に食事や会話が出来れば困りません。

本当に歯がグラグラして噛めなくなったり、歯が抜けてしまったり、虫歯で痛い思いをしたり、口臭を指摘されて気になったり、そういう色々なことが積み重なって「これじゃいけないかも…。」と気づきがあって、初めて自ら自分の歯の健康について考えるのだと思います。

ですので、この患者さん方にも、この10年の間に「ちゃんと磨こう。」と自ら思えるきっかけが何かあったのかもしれません。

ちなみに私自身の恥ずかしい話なのですが、私は昔から就寝時にマウスピースを必ずしなくてはいけないほど、噛み締めや歯ぎしりが酷いのですが、自分で作ったマウスピースを持ってはいたものの、ほとんど使っていませんでした。

理由はシンプルに面倒だったからです。

そしてマウスピースをしなくても、それまで困ることが無かったからです。

しかし、ある時に歯ぎしりによって歯にヒビが入り、そのヒビから虫歯菌が入って、虫歯になってしまい、3本の歯を治療しました。

医者ならぬ、歯医者の不養生です。

歯医者なのに虫歯が出来てしまったことが、悔しくて、ショックで、それからはマウスピースをずっと継続しています。

②継続

次に「継続」です。先ほど書いた3人の患者さんに共通することが1つあります。それは定期健診を継続して受けていらっしゃったことです。歯が磨けていなくても、歯が悪くても、欠かさずに定期健診で歯医者さんに来られることで、歯の健康に意識が向く機会が何度もあったということです。

人と人が親しくなる方法の一つに、会う回数や話す回数が増えれば増えるほど親しくなるというのがあるそうですが、あまり磨けなくても、とりあえず定期健診で歯医者さんに行っていれば、歯の健康について考えるきっかけはあります。磨き方をチェックされたり、クリーニングでサッパリすることで、予防に対する意識が高まることもあると思います。

③時代

最後は「時代」です。少し大袈裟な話になりますが、この10年で患者さんの歯の健康に対する意識が高くなっていると感じます。

テレビやネット、新聞で歯の健康が全身の健康に深く関係すること取り上げることが増えました。誰もがスマホを持つ時代になりましたので、お口のことで気になることがあれば、サッと検索も出来ます。

患者さんからも「歯周病と糖尿病って関係あるんですね。」「歯磨きのあとはあまりゆすがない方がいいって、テレビでやってました。」など、ひと昔前では患者さんから聞かれなかったようなことをおっしゃる患者さんが増えました。

以上の3つが私の考える要因です。

だんだんと良くなる患者さん方について思うのは、何かを改善するには時間がある程度必要だということです。

虫歯や歯周病は生活習慣病です。

いくら治療をしても、普段の歯磨きや食生活が良くないと、また再発して悪くなります。

毎日生活していると色々大変なことがあります。

ストレスでつい甘い物ばかり食べてしまったり、子育てや仕事で疲れて歯磨きまで気が回らないなど、仕方ない時期は誰にでもあります。

ですので、指導しても磨けない患者さんには寄り添いながらメンテナンスしていき、患者さんが気づくきっかけを待つことも大切だということを患者さんから教わりました。

私の尊敬する歯科医の先生の言葉に「最良の先生は患者さん」という言葉がありますが、患者さんから教わることは本当に多いです。

これからも患者さん1人1人に向かい合い、寄り添った診療を出来るように頑張ってまいります。

以上「だんだん良くなる患者さん」でした。

今回もご覧いただきありがとうございました。

舌が痛い。ヒリヒリする。

院長の笹山です。

当院には「舌が痛い。ヒリヒリする。」と来院される患者さんが結構いらっしゃいます。

考えられるのは…

1)口内炎

2)舌痛症

3)ドライマウス

4)カンジダ症

5)被せ物や入れ歯の不具合

6)良性腫瘍や癌など

などです。

この中で原因として多いのは、ドライマウス(口の乾燥)です。

口の乾燥には原因が色々あります。

1)鼻呼吸ではなく、口呼吸している場合。

2)薬の副作用で唾液の分泌が減っている場合。

3)加齢現象で唾液の分泌は減った場合。

4)アルコール成分を含むうがい薬を頻繁に使う場合。

5)ストレスや更年期障害がある場合。

ではなぜ口の乾燥が、舌の痛みやヒリヒリの原因になる可能性があるのでしょうか?

口の中には凸凹した歯があるのに、舌が触れても痛くないのは、唾液で濡れているからです。

話したり、食べたりするときに舌があちこちに動いても、唾液が潤滑油となって、歯に触れても痛くないのです。

この唾液が減ると、舌の動きにスムーズさが無くなります。

歯は年齢と共にすり減っていき、歯の表面の凸凹が減り、平らな面になっていき、面になった部分の端っこは角になります。

擦り減ってギザギザした前歯↓

このすり減ってギザギザした歯は、普段唾液で濡れていると気にならないのですが、唾液が少ないと舌が擦れたりして、痛くなることがあります。

詰め物や被せ物、入れ歯の段差も、唾液が少なくなると、舌に擦れる可能性があります。

当院では、まずお口の中をチェックして、そのような段差や角が無いか確認します。そして乾燥の原因が他にないかを診察をします。

そして、原因が特に見られない場合は舌痛症を疑います。

舌の痛みやヒリヒリが気になる方の中には「もしかして悪い病気?」などと悩まれている方が多いです。そんな時はご相談いただければと思います。

以上「舌が痛い。ヒリヒリする。」です。

 

親知らずの下に、もう一本親知らず?

院長の笹山です。

先日、虫歯が酷くなった親知らずを抜歯する処置をおこないました。

下のレントゲン画像の向かって左端が虫歯の親知らずです。どこが虫歯か分かりますでしょうか?

 

図解します↓ 赤く縁取っているのが親知らず、その中の斜線部分が虫歯です。かなり大きい虫歯です。これくらいだと今まで痛みが無かったのが不思議なくらいです。(青い部分については後で説明します。)

虫歯で崩壊寸前の親知らずを抜くのは、ちょっと難しいです。

まず虫歯で歯がボロボロに溶けているので、抜きにくくなっています。例えるなら、腐って朽ちてしまった木の根っこを引っこ抜くようなイメージです。掴むとボロボロと壊れていくので、難易度が上がります。

何とか抜歯し終えて、抜き残した根っこがないか歯を抜いた穴をミラーで確認したところ、親知らずを抜き終わったはずの穴に、歯の根っこではない何かがはっきりと見えました。

その何かとは、親知らずを抜いた穴から見える過剰歯でした↓

*過剰歯とは? 

人間の歯は通常親知らずを除くと上下合わせて28本あります。その28本以外に歯が余分に出来てしまったものを過剰歯といい、病気等ではありません。通常の歯のように生えてくる場合もありますし、今回のように骨の中に埋まったままの場合もあります。歯の大きさは通常の歯より小さいサイズのものがほとんどです。

図解します↓青囲みが親知らずを抜いた後の穴、緑囲みが骨に埋まった過剰歯の一部が見えている状態、矢印は手前の奥歯の一部です。

ちなみに先ほどの2枚目のレントゲン写真の青囲みの部分が過剰歯です。

実はレントゲン写真を見た段階では、親知らずの大きな虫歯に気を取られて、過剰歯の存在に気づいていませんでした。何となく、親知らずの根っこの周囲のレントゲン像に違和感を感じてはいたのですが…。

この過剰歯は深い位置にありますので、このまま抜かなくても、傷口が塞がれば、埋もれて見えなくなります。埋まったままの歯であれば、虫歯になったりしませんし、問題はほとんど起きません。

ですが、見つけてしまったものをそのままにするのは、何となく違和感があるので、同時に抜いておきました。

ただし、この過剰歯は骨に埋もれていたのと、解剖学的に副鼻腔(上顎洞)と近接していたので、かなり慎重に抜歯をおこないました。

抜き終わった歯です↓ 左が過剰歯、右側が親知らず(虫歯でボロボロだったので、ほとんど根っこだけの状態です。)

患者さん、お疲れ様でした!

安全に抜歯をするために少し時間がかかってしまいましたが、無事両方抜けて良かったです。

以上「親知らずの下に、もう一本親知らず?」でした。

 

何とかなりました。短期集中治療。

院長の笹山です。

海外から一時帰国中の患者さんが定期健診で来院されました。

「フロスが引っ掛かる歯があるので気になる。」とのことで

拝見したところ、レントゲンで虫歯が発覚!下の画像、向かって右から2番目の歯です。

矢印部分が虫歯です。ここにフロスが引っ掛ってしまうのです。そして赤い丸で囲った部分は、歯の根の先に膿の袋が出来ており、神経が死んでしまっています。

神経が死んで壊死している場合は、今は無症状でも、いつ猛烈な痛みを生じるか分からない危険な状態です。海外でそんな事態になったら、大変です。

こうなると虫歯を削って、型取りして次回被せて終わり!というわけにはいかず、まず壊死した神経の治療からおこなわなければなりません。

すぐに帰国日をお聞きして、帰国ギリギリまでに治療を終えるスケジュールを考えました。

時間が無いからといって、治療の質を落とすと、また痛みが起きたり、再発の原因になりますので、必要な治療回数を換算すると、かなりタイトなスケージュールとなりました。

歯の根の治療後↓

 

元の被せ物を除去したところ↓ 茶色い虫歯が見えます。(レントゲンの赤矢印で虫歯だったところです。)レントゲンで見るより、虫歯は大きかったです。

 

虫歯を取り残さないように、赤色の虫歯染め出し液で虫歯を染め出しているところ↓ この染め出し液を塗って、水洗した後も赤色が残る部分が虫歯です。

 

虫歯をすべて除去したところ↓ 濃い赤い部分は、歯ぐきの炎症です。

歯の補強を終えたところ↓

ここまで来たら、後は歯型を取って被せ物が出来たら装着して終わりですが、今回のように通院可能期間に制限がある場合は注意が必要です。

万一、出来上がった被せ物が合わない場合、通常であれば歯型の取り直しなどで対応しますが、今回は帰国まで日にちがないため、再度歯型を採って作り直す事は日程的に不可能でした。

装着は1回勝負となります。

しかし何事もそうですが、絶対はありません。

そこで万一に備えて、歯科技工士さんにお願いして、今回装着予定のジルコニア製の被せ物とは別に、プラスチック製の仮歯も同時制作してもらいました。

万一、ジルコニア製の歯が合わなかった場合は、プラスチック製の歯を装着するのです。プラスチックは強度が落ちる分、部分的にプラスチックを足したり、削ったりして、形の調整が出来るので、少々合わなくてもその場でカスタマイズして歯に合うように調整することが可能です。

一方、ジルコニアは削ることは出来ますが、その場で足すということが出来ませんので、歯と歯の間のきつさが緩いとか、咬み合わせが低い場合などにも、その場で足すことが出来ない材料です。

出来上がった2つの被せ物を見比べてみます。右がジルコニア製、左がプラスチック製の被せ物です。見た目の違いは分からないと思いますが、材質はかなり異なります。

ジルコニアの被せ物の方が抗菌性が高く、割れることもほぼ無いのですが、プラスチック製でもPMMAという強度の高いプラスチックを選べば、1年ぐらいは持つと思います。

今回は万一の事態が起こらず、無事にジルコニア製の被せ物を装着出来ました↓

幸いこの患者さんは、日本に滞在中の時間的制約が少なかったので、週3回程度1回約1時間の予約枠をあらかじめ数回分確保して、何とか歯を被せて噛めるところまで辿り着くことが出来ました。

歯を作る歯科技工士さんにも協力をお願いして、被せ物の製作期間を通常の半分以下の納期にして頂きました。(ありがとうございます!)

被せ物を装着した日に、今後の虫歯予防のためのアドバイスをしっかりとおこない、その次の最後の予約では、噛み合わせの微調整と予防のためのクリーニングをおこないました。

今回少々大変でしたが、質を落とさず、しっかり治療が出来ましたので良かったです。

患者さん、お疲れ様でした!タイトなスケジュールだったと思いますが、こちらの予約状況に合わせて来院して下さったので、スムーズに治療が進みました。

また帰国の際にはメンテナンスでお待ちしています^^

40年通われている患者さん 

院長の笹山です。

今回は40年以上当院に通院されている女性の患者さんのお話です。

その最初の通院のきっかけは「顎関節症が酷くて、何処の歯医者さんにも診てもらえない。」でした。

前の歯医者さんで顎の不調を訴えたところ、咬み合わせを削って調整され、顎に余計に負担がかかるようになり、口が開きにくくなり、顎の痛みや異音、肩や手まで痺れるようになり、他の歯科医院に転院するものの、数軒の歯医者さんに治療を断われ、歯科大学病院を受診するも、そこでも治療を断られてしまったそうです。

その後、顎の症状の悪化により、口がほとんど開かなくなり(開口障害といいます。)食べ物は流動食的な物を、僅かに開いた口の横から流し込んで食事を取っていたそうで、体重は30㎏代前半まで落ちてしまったそうです。

あまりに辛くて毎日死にたいと思っていたそうですが、当時中学生のお子さんがいらして、まだ死ぬわけにはいかないと、人づてに当院を聞いて来院されたそうです。

患者さんがおっしゃるには、最初は先代の院長である父にも「これは難しい。」と言われて断られたそうなんですが、診察後も待合室に居残り「何とかしてください。」と何度もお願いしたそうです。

結局父が「どこまで良くなるか約束できないけど。」と折れて治療をスタートしたようです。

その後、数々の治療を経て、多くの不定症状は改善し、軽度の開口障害が残るまでに改善したとのことでしたが、その当時の話を父に聞くと「最初の数回は治療をせずに30分から1時間毎回話を聴くだけにした。」とのことでした。

私の想像ですが、父も治療するとは言ったものの、まだ手を付けるかどうか迷いがあったのかもしれません。

それくらい重度の顎関節症の治療は難しいのです。

現在、顎関節症はストレスによる歯ぎしりや、噛み締めが主な原因と言われており、患者さんの訴えを十分に聴く事でストレスが緩和されたり、時間の経過も症状の改善に繋がったのではないかと思います。

私がこの患者さんを引き継いでから、10年近く経ち、患者さんは80台半ばになられましたが、今もお1人で電車に乗って、定期健診を受けるために来院されます。

「私は歯の大切さを誰よりも分かっているので、歩けなくなっても、タクシーで来ます。」とおっしゃり、私自身は、父から引き継いだ後、特に大きな治療をすることもなく、メンテナンスをおこなっているだけなのですが「大先生にも若先生もいつも感謝しています。」と言ってくださいます。

今回の患者さんに限らず、先代からの患者さんで、引き続き通って下さり、私にまで感謝してくださる方が多くいらっしゃいます。

私もそう言って頂けて、本当にありがたいですし、励みになります。

こんなことを言っては語弊があるかもしれませんが、過去に皆さんが笹山歯科医院にお支払いした診察費で、私は歯科大学に進学出来、今こうやって先代の医院を引継ぎ、皆さんを引き続き診察することが出来ています。

ですので私が最後まで責任を持って皆さんを診続けることは当然のことなんです。

今、先代からの患者さん達は皆さんご高齢になられました。今後いつまで通院して頂けるかは分かりませんが、笹山歯科医院に通っていて良かったと思って頂けるように引き続き頑張ってまいります。