硬いパンを食べたら歯が折れてしまった患者さん。
グラグラの折れた歯の部分を麻酔して取り除きました。
歯の根まで折れてしまっています・・・。
通常歯の根が深くまで折れてしまった歯は抜歯適応となります。
このケースでは根の一部が歯茎より5ミリ近く深い位置まで折れてしまっていました。
最近の歯科業界の傾向ですと考えられる治療は抜歯して「即時インプラント」
「即時インプラント」とは歯を抜くのと同時にインプラントを埋め込む治療のことをいいます。
確かに抜いた周りの骨が痩せる前にインプラントを埋めれば長期的な予後は良いといえます。
当院でもインプラント治療をおこなっていますが、あらゆる治療の選択肢の中でインプラントが一番有効である場合におこなうと決めています。
もしくはこの歯を抜いて両隣の歯を削ってブリッジ。
でも両隣の歯は健康なキレイな歯なので、患者さんも私も削りたくありません。
今回は歯を抜かずに残して治療することにしました。
抜かないで、インプラントにもしないで、どうやって?
「エクストルージョン」という治療方法です。
折れた根のまま歯をかぶせても長持ちはしませんので、歯の寿命を延ばすために矯正治療を行い、歯の根っこの位置を変えます。
根の折れた面を歯ぐきの高さまでゆっくり引っ張り上げる治療です。
根にフックをつけ、両隣の歯にバーを渡して矯正用のゴムで牽引します。およそ1~2か月かかります。
前歯は見た目の問題もあるので、装置の上から薄い仮歯を装着して目立たないようにします。
上から見るとこんな感じ。複雑な装置です。
レントゲンではこう見えます。左側がスタート。右側が終了間際。
バーとフックの距離が縮まっているのが分かりますか?この縮まった距離分、歯の根が移動したということです。*生物学的幅径biologic widthが確保された状態です。
ひと手間かけて、このように歯の根を位置を変えるだけで歯の寿命は確実に長くなります。
治療後:最終的にジルコニアオールセラミッククラウンの歯が入った状態です。
10年前から仕事をお願いしている、いつもの歯科技工士さんに作って頂きました。自然な見た目ですね^^
*患歯の歯頸線の位置も術前と比較して反対側の側切歯と対称性が改善されています。クリーピングできるような歯根形態を付与していますので、これから歯肉レベルがもう少し揃ってくると思われます。
この治療は健康保険は適応しませんが、インプラントと比べると治療費もかなり抑えることもできます。
何より人工歯根であるインプラントではなく、ご自身の歯の根を生かす治療ですから体に優しい治療です^^