最近興味深い研究結果が発表されました。
重度の歯周病の歯を残すと、アルツハイマー型認知症の発症率が高くなるという研究結果です。
研究発表の概要↓
https://www.dent.tohoku.ac.jp/news/view.html#!955
アルツハイマー型認知症の発症と歯周病の関連については、以前から指摘されていましたが、具体的な発表はあまりなかったと思われます。
これから更なる解明が待たれます。
さて、当院でも歯はなるべく抜かずに残すようにしていますが、歯周病や虫歯、歯根破折などにより、あまりにグラグラが酷い歯や、頻繁に腫れて膿が出るような歯については、抜歯を提案することがあります。
歯医者になって25年が経ちますが、臨床的な実感からしても、このような歯を残すメリットはあまりなく、逆にデメリットの方が多いと思われます。
考えられる主なデメリットは以下の6つです。
1つ目のデメリットは、周りの健康な歯への影響です。
重度の歯周病でグラグラしている歯は、歯の根の深い所まで歯垢や歯石、歯周病菌が入り込んでおり、治療では取り切れないものがあります。
このような歯は常に汚れており、歯周病菌が繁殖しています。
周りの他の歯をいくら綺麗に磨いても、悪い歯から菌が繁殖されている状態になりますと、健康な歯も影響を受けてしまいます。
お風呂のカビ掃除に例えると、掃除の時に一か所だけカビを取らない場所があったとすれば、それ以外の場所をどれだけ綺麗にしても、カビがまたすぐに増えてしまうという感じです。
2つ目のデメリットは耐性菌の問題です。
抜歯するかしないかは、患者さんのご希望を第一に尊重しますので、抜歯せずにそのままにする場合もありますが、やはり急に腫れたり、痛みが出ることがことが多く、その場合は抗生物質を出すことがあります。
抗生物質を頻繁に服用すると耐性菌という抗生物質が効かない菌が生まれてしまうこともあります。
3つ目のデメリットは全身への影響です。
現在、歯周病が様々な形で全身への影響を与えることが分かっています。
誤嚥性肺炎、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、リウマチ、骨粗鬆症など歯周病が悪化すると影響を及ぼす病気はたくさんあります。
歯周病でグラグラの歯には常に歯周病菌が繁殖していますので、そのリスクが高まるということです。
4つ目のデメリットはその後の治療への影響です。
重度の歯周病でグラグラしているということは、歯の根の周りの骨が溶けて無くなっているということです。
そのような歯を抜歯すると、その部分の骨はほとんど残っていません。
骨が残っていないということは、骨の上にある歯ぐきも大幅に無くなってしまいます。
そうすると、抜いた後に抜けた歯を補う治療にも不利になります。
入れ歯なら、痩せた骨の上では安定せず、痛みが出やすくなります。
ブリッジなら、汚れが残りやすくなります。
インプラントなら、骨が痩せすぎると治療そのものが無理になってしまったり、大幅な造骨手術(骨移植)が必要になります。
このように歯周病が極限まで進行すると、後の治療に大きな影響が及びます。
5つ目のデメリットは口臭の問題です。
繰り返しになりますが、重度の歯周病に侵されてグラグラの歯は、歯周病菌が大量に繁殖していますので、歯周病菌の出す悪臭により、ガムを噛んだり、歯を磨いたり、歯医者さんでクリーニングを受けても、口臭が治まらない場合があります。
口臭についてはこちらも参考にどうぞ↓
6つ目のデメリットは噛み合わせの問題です。
重度の歯周病の歯はグラグラしていて、噛むと痛かったり、噛みにくいので、そこでは噛まずに、健康な歯で噛もうとします。そのことによって、健康な歯に過剰な負担がかかり、傷めてしまうことがあります。
以上のようなデメリットがあります。こうして文章にまとめると、改めてデメリットが多いことに気づかされます。
逆に歯を抜くメリットとしては、重度の歯周病の歯を抜歯したことで、体調が良くなったり、お口全体が綺麗になった患者さんをたくさん見てきました。
また、上記の①~⑥のデメリットが減るというのも、大きなメリットといえます。
抜歯は患者さんにとっても、歯科医にとっても、出来れば避けたい治療です。
どんな歯でも抜かずに患者さんの希望を尊重して、残しておく方が患者さん受けはいいかもしれません。
しかし、周りの健康な歯や全身に悪い影響を与えている状態でも残すことには疑問を感じます。
患者さんも単に歯を抜きたくないという気持ちだけではなく、
「歯を抜くのが怖い。」
「歯を抜いた後にどうなるのか?」
「入れ歯になるのか?」
「インプラントを勧められるのか?」
「他の歯もどんどん抜かれるんじゃないか?」
「そのうち総入れ歯になってしまうんじゃないか?」
など、歯を抜くことそのものよりも、その後について不安を感じていらっしゃることが多いので、当院では抜歯を説明する場合は、歯を抜いた後どういう治療方法があるのか?その患者さんのお口の将来像について丁寧に説明しています。
また、他の医院で抜歯の診断を下され、抜歯するか迷われてセカンドオピニオンで来院される患者さんも結構いらっしゃいます。
拝見すると、グラグラでも歯の状態によっては、抜かなくてもいい歯もありますし、抜いたほうがいいと診断する歯もあり、それぞれです。
迷われた場合は、他の医院でセカンドオピニオンを受けてみることをお勧めします。
抜くにしても、残すにしても、患者さんが納得されていることが一番大切なことだと思います。
以上「グラグラの歯を抜かない6つのデメリット」でした。
皆様のお口の健康増進のために参考になれば幸いです。
宝塚市の歯医者 笹山歯科医院